医者が米国で妊婦になった【3】 祖国を離れて食べづわり
来た来た、食べづわり
妊娠反応は陽性になったものの、体調も気分もいつもと変わりないなぁと思っていたら、きましたきました、つわりが。
妊娠5週ごろから、朝起きたらウプウプした感じがあって、ちょっと食べるとおちついて、時間がたつとまたウプウプ。ははぁ、これが話に聞く食べづわりというやつか、いよいよ妊婦っぽくなってきた!
とはいえ、期間限定のことなのでお気楽に構えています。胃腸カゼの回復期と同じく、食べたいときに食べられるものを小分けに食べるしかないですね。
食べづわりの知識は素人レベル(^_^;)
薬や手術というより養生的なアプローチでつきあっていく心身のトラブルは、医学部ではあまり習いません(そこまで手が回らないうちに6年たってしまいます)。つわりもそのひとつで、サラッと教わるのみです。
つわりがとてもひどくなると重症妊娠悪阻 hyperemesis gravidarumといって入院治療が要ることもあるし(全妊娠の2%弱に起こると言われています)、双子以上の妊娠や異常妊娠のひとつの胞状奇胎だとつわりが重くなる傾向があるとか、そういうことは習いますし、対処も学びます。
が、病院に行くほどのことじゃない(≒ 大多数の)つわりについては完全に素人、なーんにも知りません。妊婦本やネットから情報収集して概略をつかみ、気になるところは医学論文を読んで補完する付け焼き刃での対処となりました。
以降は、
1)「つわりの科学」…科学的な事実、
2)「つわりの個人的体験談」…わたしの場合
の2部だて+脱線 でお送りいたします。
つわりの科学
医療情報を読んで解釈し、実際の患者さんに応用するのは医者の大事な仕事のひとつです。
世界中でみんなが研究した成果が毎日大量に発表されている中から取捨選択して情報をつかみ、「使える」かどうか吟味するトレーニングを受けててよかったなぁ、と感謝しつつ、ウプウプしつつ、ちょこっと調べてみました。
米国の有名な病院「メイヨークリニック」が出している、患者さん向けの簡単な情報↓
Nausea during pregnancy: A good thing? - Mayo Clinic
によると、要点は以下のとおり。
・つわりが起こる仕組みは不明だけど、妊娠したときに作られるホルモンhCGが関与している
・危険なものを避け、摂るべきものを食べるように誘導しているのかも
・つわり→ あまり動けなくなる→ 強制的に安静→ 胎児の発育に有利かも
妊娠検査が手軽にできない時代は妊娠に気づくのが遅れて有害なものを食べちゃうことも多かったでしょうから、よくできた体の仕組みなのかもしれないけれど、何も吐くまでしなくても、ねぇ?
もう少し専門的に、いろんな論文をあつめて評価して「まとめサイト」的な論文を出しているコクランレビューによると、
Interventions for nausea and vomiting in early pregnancy. - PubMed - NCBI
・つわりに対していろんな研究がされているが、食生活について比べた研究は見つからなかった(ガーン…)
・ツボ刺激に関する情報は少なく、効果が証明できた研究はなかった
・ショウガについては効く・効かないで意見が分かれている
・ビタミンB6やその他の吐き気止めが効くとする研究はほとんどない
・つまり、つわりに対して「こうするといいよ!」と自信をもってオススメできる治療法は現時点では、ない。
…というなんとも救いのないまとめなのでした。
「研究がない/効果が証明できなかった」すなわち「治療法がない/なんにも効かない」ではないけれど、なにかひとつくらいはバシッと効くオススメ治療があるとよかったなぁ。
ちょっと脱線…「養生」って研究/証明しにくい
補足をしておくと、薬の研究に比べて養生の研究はやりにくいので、論文になりにくいと言われています。
たとえば、つわりのときは少量ずつ何度にも分けて食べるのが良いとされていますが、これを研究で証明しようとすると、
1)つわりのある妊婦さんを集めてくる
2)少量ずつ何度にも分けて食べるグループと、1日3食のグループに振り分ける(本人の希望は無視)
3)上記の食べかたを守らせる
4)つわりのひどさを何らかの方法で点数化して記録させる
5)少量グループと3食グループでつわりの点数を比べて、統計的に分析する
といった方法があるのですが、とてもめんどくさい。
だいたい、「少量ずつ何度にも分けるといいよ」と言われているのに、わざわざこの研究に参加したい妊婦さんはいるのか?
1日3食のグループに振り分けられたとして、食べれないものは食べれない(指定された食べかたが守れない)。
などなど、この研究がうまくいかなさそうなのは目に見えています。
これが、上記コクランまとめ論文の「食生活についての研究は見つからなかった」理由のひとつだと思います。
さて、こういう場合、患者さんにどういうアドバイスをするかは医者によってスタンスが異なります。証明された方法がない中、医者として何かを勧めるのを躊躇する人もいます。私自身は「あまり害がなさそうな方法なら、いろんなことをじゃんじゃん試してみたらいい」という立場をとっています。
さらに脱線すると、重症患者さんの家族には「お参りやお守りは、効くと思ったら効くことがありますから、どうぞやってください、私たちも祈りながら薬を使ってますよ。でも高い壺とか変な水には手を出さないでね(笑)」と言うこともしばしば。何か自分でできる対処をした、という事実そのものが患者本人や家族を救うこともあると思っています。
つわりの個人的経験: 日々是実験
そろそろ本題に戻ります。
つわりの個人的経験ですが、ひとことで言うと日々実験でした。
何が気持ち悪さの引き金になっていそうか考えて、避けられるものは避けて、避けられないものは軽くなるよう事前の対策を打つ。これの繰り返しで、だいぶ楽になった気がします。
前述のツボ刺激やショウガは、試してみたけど効いた感じがしなかったので中止。
朝起きぬけの気持ち悪さに対しては、枕元にお茶とおやつを用意して起きた瞬間にもぐもぐ。
調理せずすぐ食べられるものをストック(みかん、バナナ、スナック類)。いちばんひどいときは、常になにかモソモソ食べていた気がします。
車酔いがひどくなったので、乗っている間はガムを噛む。
食洗機の洗剤の匂いがダメになったので、ダンナに食器洗いを代わってもらう(感謝!)。
お米の炊ける匂いや調理中の湯気は平気だったので、通常運転。
揚げ物が苦手になる人が多いようですが、私はむしろ油がほしくなったので問題なし*1。
酸っぱいものがほしくなるかと思いきや、そんなことは全然なし(米国妊婦はピクルスを愛する人が多いようです笑)。
こんな感じで、条件→結果、の組みあわせをいろいろ実験している気分で過ごしていました。
コロコロ変わるマイブーム食材に翻弄される: 妾を操るのは誰じゃ!?
「ばっかり食べ」は良くない、いろいろバランスよく食べなきゃ、とは思っていてもそうはいかないこの時期。
自分の意思というより、何かに操られているかのようでした。
ある日とつぜんバナナが食べたくなって、3週間くらい食べ続けたり。
日本のみかんに近い柑橘類を見つけて、ひとりで1箱/週 食べてみたり。
フライドポテトが恋しくなって、冷凍ポテトをフライパンでひたすら温めていたり。
ポン酢にフォーリンラブしてすべてのおかずにかけ続け、ダンナにあきれられたり。
キュウリ&トマトにハマってまとめ買いしたその直後にブームが去ったり。
先週は毎日食べてたヨーグルトが、今週は見るのも嫌だったり。
こうやって書き連ねてみると、ひどいですね(;・∀・)
エイリアンに心身を乗っ取られたらこんな感じなのかしらん。
日本食材のブームが来ると大変で、
納豆を求めて三千里→ 韓国スーパーの冷凍コーナーで発見、
のりたまふりかけを探して右往左往→ おいしいのが見つからなくて断念、
ガトーショコラが食べたい→ 韓国メーカーのチョコパイで代替、
ラーメンが食べたい→ 日本の何倍も値が張るインスタント麺を買うはめに(明星食品の中華三昧がおいしかった!!)
…などなど、カネも手間ひまもかかるのでした。つきあってくれたダンナに感謝。
また、味覚自体もズレたようで、塩味や辛味に鈍感になったようです。
ソムリエとかシェフや杜氏じゃなくてよかった(;・∀・)
妊婦雑誌やブログを見る限り、他の妊婦さんも似たような経験をされているようです。
何にハマるかは人それぞれですが、マイブームは来るみたいです。
ダンナ様がたをはじめ、周囲の方々におかれましては、暖かく見守っていただけたら幸いでございます。いつかつわりは去りますので(;・∀・)
そんで、ハマった時期に買う→ 飽きて余った食材を消費していただけたら、望外の喜びであります。
*1:こちらで人気のクリーム系パスタ Fettuccine alfredoは、食欲が落ちた妊娠中の妻のためにイタリアのシェフ作ったメニューだそうですが、チーズとバターがたっぷりのカロリー満載、めちゃコッテリ系です。こんなもん食えるか!という妊婦さんもいらっしゃるでしょうが、これこれこういうのが食べたいのよねーという人も。お察しの通り、わたくしは後者でした笑